昭和48年、私たちはこの町に引っ越してきました。まだ畑が多く、住宅が段々と建ち始めてきている頃でした。家の近くには川が流れ、ヘビがいてネズミがいました。
その当時この辺りでは、ネズミ捕り用の餌が、自治体から配られていました。その上、年に一度、家の中に、駆除剤を噴霧しに来るのです。『その間は、家を出ていて下さい。熱帯魚がいる場合はフタをして、動物は外に出しておいてください。』と言われます。これは半強制的に5年ほど続きましたが、いやだ!いやだ!という人が出てきて、希望者だけになり、その内、無くなりました。
それからだいぶ経ち、12~13年前、家を空けることがありました。しばらくぶりに戻ってみると、部屋中にティッシュが散らばっています。野菜入れのジャガイモにはつついた跡があり、お手玉は縫い目が抜かれて、中の小豆が食べられていました。一方、数珠玉には全く手が付けられていませんでした。
その晩、寝ていると、鴨居から枕元に、何かが、落ちてきて、ダーッと走っていきました。身は細長く、尻尾は長く、恐らくクマネズミです。思わず、かっこいい…と見惚れてしまいました。ネズミは、古い換気扇をぽーんと飛んでいきました。
実はそのネズミ、箪笥の陰にティッシュで巣を作っていました。ふと見たら、そこに、鎮座ましましていたのです。
そこで、追い出そう!と、ついに決意し、窓を閉め、箪笥に向かって煙を焚きましたが、肝心のネズミは、ダーッと逃げていっただけで、家の中からいなくなったのかは、わかりません。逆に、自分の方が煙にやられて気持ち悪くなる始末でした。
次に、お隣さんが探してくれた業者さんに依頼することにしました。1か月8万円ということでした。業者さんは、鴨居や床下に網を取り付ける等してくれて、その内に、ネズミの姿も見えなくなったので、1か月で断わろうと思ったのですが、2か月契約と言われて、結局、2か月分の代金を支払うことになりました。
その業者さんが言うには、ネズミは、どっかの家が取り壊されると(住処を追われると)、人がいない家に来て(引っ越してきて)友達を呼ぶ、そうです。
(昭和50年前後/平成10年代・埼玉県)