第118話 客人を迎えるようにし、これを歓待し、終われば送り返す

先日、高野山に行ってきました。最近、空海の大ファンになって、大師様のお近くに行ってみたくて友人と旅行しに行ってきたんです。

極楽橋駅から急こう配のケーブルカーに乗ってお山に登ってね。そしたら、ケーブルカーすれすれのところでバンビが…、こんな小さな頭でやせっぽちな真っすぐな脚をした小鹿が、真っすぐこちらを見ていたの。友達が「置物がいるよ」って言うのね。あまりにも可愛いから。でも急に耳がピクピク動いて、本当に生きている!って。 たったひとりでそこにいたの。

二日目は、奥之院に行って、そこには大師様がいらっしゃるご霊廟があるんですけど、その霊廟のところをね、ピピピピピ!って、すごい大きな声で本当に一羽だけ、鳥が屋根の上を旋回していたの。すごい、ピピピピピピ!!って、すごい大きな声で。ピピピピピピ!!って。もっともっと、すごいんだけど(笑)。みんな「元気だね」なんて言っていて、そしたら、今度はこちらの私たち人間がいるお堂の屋根の下に入ってきてピピピピピ!って。それでまたお大師様の所に戻って、ピピピピピ! 繰り返すの。旋回してまたこっちに来てって、クルクルクルクル、私たちがいる間、ずっと繰り返しているの。

それでその後、参道を歩いて帰っているとその道が終わる頃に友人が「Fさん、足元見て」って言うのよ。それで見たら、私の足元10センチ位のところに白いカエルがのそのそと来て止まったの。雨蛙より大きくて、真っ白ではないベージュぐらいの色なんですけど。本当だ…と思って、動かないからね、私そのカエルに向かって「どうぞ」って「どうぞ行って下さい」って言ったんですね。分かると思ったから。でも動かないの。全然動かないから「じゃあ、すみませんけどお先に行かせてもらいます」って言って、乗り越えて歩きだしてちょっとしてから振り返ったんですけど、そこから微動だにしないでじっとしていたの。

実は、その鳥とカエルの前日、小鹿に会った一日目の夕方にもうひとつエピソードがあるんです。旅行に行った2日とも曇り時々晴れ間みたいな天気だったんですね。それで、一日目は、高野山の見どころ、金剛峯寺や根本大塔とか一通り見終わって、じゃあまだ早いけど宿坊に行こうって友達と言い始めた時、雨がポツポツしてきて、そしたら目の前に霊宝館があったんですね。霊宝館は明日の予定だったんですけど、雨も降ってきたし時間もあるから今日入ろうって言って入ったとたんに、雨がザーッと滝のように降り始めて雷もゴロゴロすごいんですよね。

そんなだから、友達が「傘買わなきゃ」って。でも何となく私、「傘買わなくていいんじゃない?」って言ったの。そうしている間に、館内も見終わって、さてどうしよう、見終わったし宿坊に行こうかって霊宝館を出たらもう小雨になっていて、これなら大丈夫だよねって言っていたら、晴れ渡っちゃったんですよね。あ、もしかしてこれは霊宝館に呼ばれたのかなって。雷って龍神って言うでしょ? 家に帰ってきて、あれは龍だったんじゃないかなって思ったのは、高野山の資料を読んでいたらある一文を見つけたからなの。

(空海が)晩年に高野山のことをこう述べている。

この山の形勢をいうと、東西はあたかも龍が伏しているようで、東流する川があり……

この文章は、うちに帰ってから読んだんです。それで、高野山は龍にまつわる場所だったんだってわかったんですよ。そしてもうひとつのページにね、

客人を迎えるようにし、これを歓待し、終われば送り返す……

これは空海が生きている時、客人を門まで見送る意味を問われて「客人ではなく客人に寄り添っているお付きの仏心に対してここまで見送りに来ているのだ」と言ったっていうエピソードがあって。これも、旅行から帰って来てから分かったんですけど。

だから、私と友人、二人がね、小鹿にお出迎えされて、鳥と龍に歓待されて、カエルにお見送りをされたのよねって。二人の中ではそういうことになっているんですよ。だから…そういういい旅だったんです。

(和歌山県・令和5年)

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