第84話 台所のまわり

 私の故郷の家は郡山から4キロほど離れた農村地帯にあって、当時にしてはめずらしい現代的な立派な家でした。父は紡績会社の勤め人で、母はばあやを連れてお嫁に来ました。私は、ばあやのことを「大きいばあちゃん」と呼んで、年中くっつき、色んなことを教わりました。

 当時、炊事はかまどと七輪を使い、炭で火を起こしていました。(お風呂は、コークスを使用していました。)私たち家族は、昭和20年代、東京に出て来ることになるのですが、その時初めて、ガスというものを見ました。

 学校に持ってくるお弁当といえば、卵と鮭を持ってこれるのはクラスに一人くらい。大抵みんな、たくわんだけで、それが温まると、すごい臭いがするのです。(持ってきたお弁当は、保温機で保温されています。)でも、ごはんが持ってこれるだけでも良かったよね。

 お肉が食べられるのは、お正月かお客さんが来た時くらいで、卵を産まなくなったニワトリを、知り合いのおじさんに絞めてもらっていました。私は鍋の中の鶏肉を見ていると、「コッココッコ」言ってるように聞こえました。いつもニワトリに餌をあげるのは、私の役割でしたから。でも、食べました。

 お正月には、牛肉を買ってきて、すき焼きにし、お客さんにふるまうこともありました。私たちは、その後、鍋に残ったネギと汁をいただくのですが、それが、ごちそうでした。

 (昭和10年~20年代・福島県)

 

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