第86話 ムクドリの巣立ち

 隣家の2階の窓の雨戸は、開かずの扉になっており、その戸袋には、毎年、ムクドリが巣をかけるのです。

 その日は、ムクドリたちの巣立ちの日でした。雨が降っていて、兄弟鳥はすでに巣立ち、最後に残ったひな鳥が、アジサイの植え込みに、落ちていました。雨で羽が濡れて飛べないのかもしれません。バタバタとしています。周りには野良猫もいて、危険です。私は、そのひな鳥を家に連れて帰り、体を拭いてやって、竹でできた小さな鳥かごに入れて、ひと晩、様子を見ました。

 翌朝は、ピカピカのお天気でした。お腹が空いたろうと、鳥かごを庭のテーブルの上に置き、虫をつかまえてきて、ひな鳥の口元まで持っていってやるのですが、なかなか食べようとしません。困ったなあ、と思っていると、フェンスにムクドリが飛んできました。見るとそれは、親鳥2羽とひな鳥2羽の、保護したひな鳥のファミリーの様です。私は、本当に驚きました。彼らはどこかで様子を見ていて、全て知っていたのだと思いました。それを見たひな鳥も興奮して、バタバタと騒ぎ出しました。

 私は、鳥かごの入り口をそっと開けて、洗濯ばさみで留めると、家の中から、様子を見ていました。4羽のムクドリは、テーブルの上に飛んできて、「出ておいで、出ておいで、」というようにひな鳥をいざなうような仕草をしてみせます。すると、ひな鳥も鳥かごから出てきました。そして、5羽のムクドリは、みんなでそろってなにごともなかったように、飛んでいきました。

 (平成12~13年頃・千葉県)

※この記事は、話者により、加筆修正してあります。

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