蜂は、天与の虫と言われているんですよ。宗教や国に関係なく、聖書や古事記など、多くの書物や絵画のモチーフとして描かれ、人と密接に繋がってきたことが分かります。養蜂は、1万年も前からある仕事と言われ、スペインのアラニア洞窟には、ハニーハントのシーンが描かれていて、蜂から蜂蜜を採取していた証拠のひとつと言われています。FRP素材を使って、蜂蜜屋のお店の中に、アラニア洞窟の壁画を再現している知り合いのおじちゃんもいるんですよ。蜂関係の人は、情熱的な人が多いですね。
私は、以前、本を作る仕事をしていて、それで師匠に会った時に、養蜂の仕事の魅力を知りました。師匠は盛岡市で養蜂をしており、100年以上の歴史があります。
蜂は怖いと言われていますが、本当は優しい生き物です。お世話する時も、優しく接すれば、全く刺すことはありません。蜂に、ちょっとどいてほしいときに、指で、ちょんちょんとすると、どいてくれるんですよ。優しいなと思います。
また、蜂は蜂蜜を生産するだけと思われがちですが、環境を整えてくれる役割もしています。蜂が花粉を運ぶことで、自然の植物はもちろん、多くの農産物も、授粉し、その実をおいしく実らせることができます。このように、私たち人間は、蜂からたくさんの恩恵を受けています。しかしながら、その様な背景があることを、多くの人たちは知らないのです。例えば、イチゴの形がシンメトリーなのは、蜂がおしべの周りを、クルクル回って、授粉してくれるからなんですよ。人の手で授粉させても、そうきれいな形にはなりません。イチゴ農家の多くは、養蜂家から蜂を借りて、授粉を行っています。意図せず、蜂のふわふわとした体に花粉がついて、それを運ぶことで、合理的に、農産物の授粉が行われるのです。
今、日本では、昆虫が激減しています。在来種のニホンミツバチだけでは、農作物がまかえないくらいになっています。そのため、養蜂家が飼育する外来種のセイヨウミツバチも、大切な存在なのです。
蜂を飼うには、地域住民の理解が必要です。やはり、蜂は危ないと思う方が多いのです。でも、そうじゃないんだと知ってもらいたい。これからは、養蜂の仕事だけでなく、蜂の良さを広める活動にも力を入れていきたいと思っています。
(令和2年・東京都/養蜂家)