商店街に買い物に行った主人と子供から、電話がかかってきました。リスの様なネズミの様な生きものがいると言うのです。その生き物は、駐車場でおばあさんにもらった食パンを両手に持って食べていて、集まっている子どもたちの話では、しっぽをカラスにつつかれてかわいそうだ、とのこと。
その説明から、プレリードッグではないかと思いました。「放っておいたら危ないから、だれか飼えないの?」と聞きましたが、皆、飼えないと言ってるらしい。猫用のキャリーバックを持って行きました。まだ赤ちゃんのように見えました。手のひらより少し大きいくらいです。「連れて帰っていいですか?」と聞いたら、「飼ってくれる人がいて、これで安心だね」と、おばあさんや子ども達と別れました。
家に連れて帰りパソコンで調べると、北米に住んでいてイネ科の植物を好むことが分かりました。
次に、警察に連絡を入れました。拾得物にあたるからです。今のところ、届け出はないとのことでした。それから、動物病院に相談し、「飼いたいという人がいたら連絡してくれる」、ということになりました。動物病院の人が言うには、(プレリードッグが)ウイルスを持っていると報道されたことで、捨てる人が増えているらしいのです。
上野動物園にも、引き取ってもらえないかと電話をしましたが、「プレリードッグは、ファミリーで成り立っているので、新参者は受けつけない」とのこと。「ご自分で飼われたらどうですか?」と勧められ、食べさせるものなど詳しく教えてもらいました。「捨てられたものだろうから、きっと慣れますよ。」
教わった通り、新聞紙を短冊にしたものをケージに入れてやると、プレリードッグは、自分で寝床やトイレを作りました。「ルル」と名前をつけました。ルルちゃんは、次第に慣れて、指をなめたり、飼っていた黒猫のお腹の上で眠ったりするようになりました。動物って不思議なものですよね。猫の方も、ルルちゃんをなめてやっていました。
プレリードッグは、げっ歯類なので、大きな歯があります。家具をかじるので、売っていたプレリードッグ用の木のおもちゃを与えてみると、うれしそうにバリバリかじりました。しかし、次の日、うずくまってご飯を食べません。口の中を見ると木のトゲが刺さっています。急いで、動物病院に連れて行くと、「そんなモノは与えてはダメだよ。」と怒られました。それから、トゲを抜くために、(私が)抱っこして、口を開けて、ピンセットで全部取ってもらいました。その先生は、東大のプレリードッグの専門の先生でした。「こんなにおとなしいプレリードッグは見たことない。普通、口を開けさせることなんてないよ。変なプレリードッグだな。」と笑っていました。
飼い始めた次の年のある日の朝、ケージの中が、フワフワになった新聞紙で、ぱんぱんになっています。不思議に思い、カゴの中に手を入れると、いきなり飛びかかって噛んだのです。噛まれた人差し指はまるでナイフで切ったようでした。動物病院に連絡して聞くと、「発情期だよ。」とのこと。オスだということも分かりました。発情期は、飲まず食わずになるので、水だけ与えてください、と言われました。この時期のルルちゃんは、いつものつぶらな瞳ではなく、するどい目つきになり、ギョロギョロしているのです。「ギギギギギギーッ」と、金網に飛びついて鳴き、家族のだれをも近づけないのです。年に1回程ありました。
そんなかわいいルルちゃんは、7年半、生きました。大好物はかぼちゃの種でした。笹の葉が大好きで、猫じゃらしの実も大好きでした。いつも食べすぎてまるまる太っていましたが、最期は、食も細くなり、寝ている日々が続き、やせ細り、眠るように息を引き取りました。
(平成12~13年頃・千葉県)
※この文章は、話し手により加筆・修正してあります。