冬のうっすらと雪が降り積もった小山を、僕らは、一斉に大声を上げて、よじ登っていきます。一方、山の頂上では、網を張った人が待っています。逃げ込んできた野ウサギを、押さえるためです。
これは、中学時代の学校行事の一つです。この時代、生活の足しや住民の利益になるような学校行事が、けっこうよくあったように覚えています。
男子学生が(百名ほどいたと思いますが)、山裾の周りをぐるりと囲むように配置され、それぞれが、山の上の方に向かって、ウサギを、追い込んでいきます。山は、鏡モチのような形をしていて、高い木は無く、落葉した低い雑木と笹ばかりで、見通しもよく、生徒らは、道のない斜面を、木などにつかまりながら、ワーワーと大声を上げて、登っていくのですが、実際、ウサギのすがたが見えるわけではなく、皆、ただやみくもに、叫び声を上げているだけなのです。そのうちに(収穫があったかどうかは別にして)、終わりー!のかけ声が聞こえてきて、終了になります。この行事は、年1~2回ほど、ありました。
僕の住む地域は、漁業が盛んで、肉が出るのは盆か正月くらい。肉の値段も高く、おそらく、収穫した野ウサギは、給食の足しにしたのではないかと思います。でも、足しになるほど、収穫があったかどうか、わからないのですが…。
(昭和30年前後・石川県)