内田百閒のたくさんある随筆集のうちの2冊です。これら書籍は平成になってからのものですが、初出は昭和の初めごろから昭和40年代までのものになります。時代の大きな流れを背景にしながらも、百閒先生の日常が、鋭さとユーモアをもって、描かれていて、とても正直な文章を読んでいると、淡々として同時に心が揺れる感覚になります。
今年の12月は開戦80年とのことで、戦時中や前後のことを特集するドラマや番組を目にすることが多くありました。その時、動物たちは人々とどの様に暮らしていたのか、その一つとして、内田百閒の随筆「灰塵」(新方丈記)と「目白落鳥」(阿呆の鳥飼)を紹介したいと思います。この二つは別々の本に収録されていますが、どちらも当時飼っていた目白が登場します。「灰塵」では、東京大空襲の夜、焼け出されて火炎に追われた時、ぎりぎりの決断で、一緒に連れて逃げた話。「目白落鳥」では、共に生き延びて、狭い小屋で暮らし、ついには死んでしまうまでの話になります。小説の様に長いものではなく数ページにすぎませんが、その場面を、臨場感をもって読むことができます。
明治大正昭和と、大きな戦争や災害がある中で、日常を生きた百閒先生の魅力的な随筆集だと思います。