その金魚が、いつからいて、いつまでいたのか、どうしても思い出せません。でも、私は、その金魚に、恐怖を感じていたのは、覚えています。
玄関わきの小さな棚の上に、その水槽は置いてあって、大きく成長した数匹の金魚が、ひらひらと泳いでいました。それは、何年もの間、そこにあったと思います。
次に思い浮かぶのは、水槽の底に沈んでいる白くて細い魚の骨です。新しい魚を入れた後に、それは、沈んでいたと思います。多分、共食いしたのでしょう。
金魚が、水槽から飛び出したこともありました。家に帰ると、金魚が、床に、落ちていたのです。恐ろしかった。
それ以来、私が最も恐れることは、大地震でした。大地震が起これば水槽が倒れて、金魚が、床に散らばるかもしれません。
けれど、大地震が起こる前に、金魚は消えました。金魚が散らばる恐れは、無くなったのです。
(昭和後半・埼玉県)