ラブラドールレトリバーのカブちゃんと父は、『ふたりは一緒』って感じでした。
ふたりの出会いは、カブちゃんの災難から始まります。黒い犬が欲しい、と、弟の彼女は、ブリーダーに言ったのに、いざ、犬がやってくると、飼わない、と言い出し、弟が、じゃあうちで飼う、と宣言し、両親の反対を強行突破して、家で飼い始めたのですが、その弟が、半年後、一人暮らしをするというので、カブちゃんを残して、家を出てしまったのです。
はじめは仕方なく、弟の代わりに散歩をするようになった父ですが、カブちゃんをすごく、かわいがるようになります。カブと父の暮らしが始まったのです。それからのふたりは、いつも一緒。カブちゃんは、かしこく、優しく、飼い主のいうことも、うんうんとうなずいて、わかろうとしてくれる犬でした。
十数年たって、カブちゃんの体に腫瘍ができました。だんだんと弱くなり、歩くことも難しくなりました。私が帰省した時はいつでも玄関まで出迎えてくれたカブちゃんですが、動くこともできませんでした。それなのに、私が帰るときになって「じゃあ、またね。また来るね。」と声をかけると、動いて、見送ってくれたのです。
カブちゃんは、最期、家族のうでの中で、静かに息を引きとりました。目から涙を流して。
(平成10年代~20年代・北海道)