私にとって、雑草や虫たちは、よく見かけるが故に、よく観察することも少ない、知らないことだらけの生きものです。暑くなってきて草が伸びたなとか、屋外の物をどけたら虫がたくさんいてびっくりしたなとか、ひとつの場面に遭遇したくらいの感じです。でも、この本では、植物や虫たちにも内なるものがあり、彼らの時間や摂理によって、自ら動いている(生きている)ことが描かれています。人間として人間のルールで生活していると、彼らのくらしは不思議ですね。甲斐さんの徹底した観察のおかげで、端正な絵ときれいな文章で、それらの一端を知ることができることは、幸せです。
甲斐さんの観察エピソードで、畑の跡地を借り受けて、雑草を生活させてやるために、根っこをすべて取り除いて更地にし、草に与えてやったエピソードがあります。その後、5年間、ほとんど毎日のように観察し(写生を繰り返し)、期待以上の草のドラマを目撃するのです。このことを知って、私は甲斐さん自身に、俄然、興味が湧いてきました。甲斐さんの目を通した世界を見てみたいなと思いました。この本を読んで、やはり、この方には、豊かな世界が見えているのだな、そのような方がいるのだな、と嬉しくなりました。
甲斐さんの絵本を手に取ったことがある方も、たくさんいらっしゃると思います。この本は、絵本の外につながる甲斐さんの世界が、堪能できますよ。