第60話 その名は、トンカツ

トンカツは、浅草の昔ながらの裏道の、居酒屋の前に、大人しく、小さな声で、ブブブブ…と鼻を鳴らしながら、立っていました。

家族と一緒に、浅草寺をお参りした後、近くの裏道を歩いていたら、ピンクの塊が見えました。なんだあのピンクの塊は、と思って近づいて見ると、ああ、豚だった!周りはざわついており、写真を撮っている若者もいたけれど、誰一人、触ろうとする者はいません。そもそも豚は、触っていいものなのか、私にはわかりませんし、顔を近づけて見てみると、鼻をひくひくさせて、ブブブ…と言っている。これがミニブタだったらかわいいと思ったかもしれませんが、トンカツは普通の豚で、肌はきれいなピンクでしたが、かわいくはなかった…!

トンカツは、迷彩柄のチョッキを着て、小さな黒いヘルメットを頭にのせ、ハーネスでつながれていました。そのチョッキに、「トンカツ」と書かれた木の名札がついていて、それでたぶん、この子の名は、トンカツだろうと思うのです。ご主人は、これもたぶん、ご近所の方で、トンカツを散歩がてら、居酒屋で飲んでいるのだと思います。ああ、話をしていたら、豚カツが食べたくなりました。今日の夕食は、何にしますか?二品までは、決まっているのだけれど。

(令和1年・東京都)

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