第61話 癒しの鯉

前職をリストラされてからしばらく後、短期のアルバイトをしたことがある。ベルトコンベアに、カタログを乗せる仕事で、休みなく、重く分厚いそれを、ひたすらコンベアに乗せる。やっと無くなってきたと思うと、それがまた、山になって運ばれてくる。

その工場のトイレには窓があって、下を覗くと、小さな川が見えた。そこに、鯉が泳いでいた。川上に頭を向けて、尾びれを揺らし、上から見ていると、その場にとどまっているように見える。オレンジとか黒とかよくある模様で、3匹位いた。僕は、癒された。

同じ日に入ったヤンキーくずれの同僚に、そのことを話したら、「あーそうそう、オレも見るよ、あれはすごい癒されるよ。」と、言った。

殺伐とした職場で、川を泳ぐ鯉は、僕の(たぶん他の人たちも)唯一の癒しだった。

(平成10年代・神奈川県)

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