虫が苦手な人たちは多い。一方で、熱狂的な虫好きがいることも確かなことである。何が二つを分けるのか、① かたち ② 何を考えているのかよく分からない ③ 独自の動きをする-、あたりの感覚の差ではないかと思う。そして、その①~③の謎に答えてくれるのが、この本「身近な虫たちの華麗な生きかた」である。虫が苦手な人にとっては相手を理解する一歩になるし、虫好きの初心者にとっては好奇心を満たす良書かもしれない。
虫は機能性に富み、常に遂行する生き物だ、と読後、私はしみじみ納得した。生き残りと子孫繁栄のために自分の機能を最大限に生かして虫たちは日々邁進している。そこに迷いはない(ように見える)。それに比べて私たちは、生きる意味を考えたり、かと思えば生き残りとは真逆の行動を取ったり、虫と全く戦略が違うのである。
その上、虫たちの戦略にすぎないであろう姿や生態に、情緒や美しさを感じるのが人間(特に日本人)である。「こんちゅう稼業」は、昆虫たちの幻想の世界が描かれている。そこでは、虫も人と同じ感情を持ち、昆虫という稼業をせっせとこなしている。人間は恐らく、本当のところ、虫の心情を知ることが出来ないから、人の心を虫に照らしこの様な不思議な文学作品も生まれるのだろう。