第49話 イワシの天日干し

イワシが獲れる暑い夏の季節、僕がまだ寝ている朝、おふくろは、歩いて20分ほどの港に行って、漁師の手伝いをする。駄賃代わりに魚を分けてもらうと、家に持ち帰って、身を開き、臓物をとって、塩をかけ、畳半分ほどの、蚕をのせるための平らな竹のざるに並べる。それを、梯子を使って、瓦屋根に持って上り、夏のおてんとさまの日差しが強い中、天日干しをする。魚を並べたざるの頭上には、カラスがいたずらをしないように、「脅し」として、鎌を縛り付けた竹竿を、立て掛けておくのだが、これは、カカシみたいなものだ。

そうして干したイワシを、焼いて食べると、香ばしくて、脂がのっていて、とてもおいしい。あの味は、今も、忘れられない。だから、魚は、生や煮たものより、干して焼いた物の方が好きだ。焼いた魚を、あたまからかじるのが良い。

(昭和20~30年代・石川県)

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