第57話 銀座のしまちゃん

僕が働いている銀座の商業ビルの界隈には、しまちゃんという名の地域ネコが住んでいる。焼肉屋のおねえさんは、しまちゃんをかわいがっていて、開店前の店の中に連れて来て、きらきらの首輪をつけたり、かぶとをかぶせたりしているらしい。そのとき撮られたちょっとふきげんなしまちゃんの写真は、休憩室の机の上に挟まれていて、僕は、それを見た。

しまちゃんは、ビルとビルのすきまから出てきたり、サラリーマンや買い物客が歩いているところを、ちょろちょろ歩いていたりする。7階のトイレの窓からは、銀座のひしめくビルの裏側が見えるのだけれど、この前、そのビル群の間にある小さな空白地帯に、しまちゃんが、じーっと座っていた。あ、あんなところにいる、と思って、びっくりした。

しまちゃんは気まぐれで、共同のエサ置き場にエサを入れると、すぐに来る時もあるし、気がついたら無くなっている時もある。焼肉屋のおねえさんも、毎日しまちゃんを見られるわけではないらしい。一度、しばらく姿が見えなかった時、店のスタッフの一人が、ひかれた跡があると言い出したので、みんなで心配していたら、その後すぐに、ニャーっと現れた。時折、前代の掃除のおばちゃんが、しまちゃんに会いにやってくる。このおばちゃんが、しまちゃんの名づけ親らしい。しまちゃんは、キジトラの柄模様をしている。

(令和1年・東京都)

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA