2 オオカミの護符

「オオカミの護符」/ 小倉美惠子 / 2011年 / 新潮社 / 上記の文庫本は、平成26年発行のもの

以前少しだけ、川崎市宮前区に住んでいたことがあります。起伏の多い土地で、私が住んでいた建物も急勾配の坂を登った先にあり、買い物をした帰りは、坂の下で一休みをしてから登ったものでした。

その当時、私は区内の図書館へしばしば通っていました。そこで初めて「オオカミ信仰」を知ります。今回紹介する「オオカミの護符」の書籍が大きく取り上げられていたのを、たまたま見かけたのです。しかし、気にはなっていたものの手に取ることもなく、先日、御岳山を登ったのを機に、やっと読み始めました。

この本は、著者の小倉美惠子さんが地元・川崎市宮前区土橋にある実家の土蔵に貼られている「オオカミの護符」に疑問を持ったことから始まります。この辺りは、東京オリンピックが始まる頃までは、畑や野山が広がり、百姓は野良で働き、子どもだった著者も仲間たちと駆け回って遊んでいるような昔ながらの里山でした。ところが次第に、山は削られ、小径や小川が消え、茅葺屋根の家々も消え失せていきます。私が住んでいた場所もそうやって建てられた新興住宅のひとつだったのです。

わが家の土蔵には、今も両親の手によって毎年「オイヌさま」が貼り替えられている。それにしても新たなお札は、一体どのようにしてやってくるのだろう。母に尋ねると、少し驚いたように「オイヌさまは百姓の神様だよ」と言った。そして「御嶽講の講中の家に配られるもんだ」と教えてくれた。(略)「御嶽講」の名は耳慣れていた。祖父母が時々「御嶽講」に出かけていたからだ。

-本文より引用

著者の小倉さんはその後、「オイヌさま」とは何であるのか、百姓たちの言葉を聞き取り、各地を巡りながら、深めていきます。そして、地元・土橋から始まった謎解きの旅は、青梅の御岳山・武蔵御嶽神社や秩父の宝登山神社、猪狩神社、三峰神社など、関東一円に広がるオオカミ信仰とそれを今でも大切に守り続ける人々へと、広がっていくのです。

護符ではなくてすみません…。交通安全のステッカーです。

能天気な観光気分で御岳山に登ってきた私は、ガーンとしました。そこには、多くの人たちの暮らしと祈りがあったのです。なんて多くのことを見逃してきたのだろう。せめて読んでから登ればよかった。…これから少しずつ、この本に登場した神社にも登りに行こう。知識も広げていこう。私が以前、採話の中でお聞きした話の中でも、年配の方の記憶には今の町とは違う風景が残されていました。そこには、新興住宅街で育った私には知りえない思いがあるのかもしれません。

人々に寄り添い丁寧に取材された良書です。映画「オオカミの護符-里びとと山びとのあわいに」も、ぜひ鑑賞してみたい。映像や文章で、記録に残していく大切さを感じます。

株式会社ささらプロダクション(著者の会社)のHP→ Tamaca | Sasala Web Store

【追記】

その後、父からの話で、私が通っていた都内の保育園では、御岳山の宿坊・馬場家にお泊りしていたとのこと。オオカミ信仰と関係があるかは不明ですが、御岳山が地域にとって身近な存在ではあったことが分かりました。どうやら年長組の子どもが対象だったようで、3歳で引っ越した私には記憶がないのが残念です…

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