第66話 タビとナツのおはなし

 夏をむかえた公園の林から、ミャーミャーと鳴き声が聞こえます。子猫が生まれたようです。三匹います。お母さん猫は、子猫たちを、きれいになめて、オッパイをのませます。みんな元気によく飲みます。「さあさ、みんな、もっと安全なところへお引越しをしますよ。」お母さん猫は、一匹ずつくわえて別の所へ運び始めました。


 その時、木の上から、大きなカラスが、そのようすを見ていました。「カァーカァー、うまそうな子猫だな。」カラスは、お母さん猫が一匹目の子猫を運んでいる間に、お留守番の二匹の子猫を、あっという間にくわえて、空に飛びあがりました。「お母ちゃん!たすけて~、こわいよ~、いたいよ~!」子猫たちは、せいいっぱいもがいて鳴きました。でも、お母さん猫には、声はとどきませんでした。

 子猫たちがあばれるので、カラスはおもわず、くわえていた二匹を落としてしまいました。「ミャオ~ン!」子猫たちは公園の芝生に落ちました。カラスはあきらめずに、子猫たちに向かって突進してきました。その時、公園でスケッチをしていたおじいさんが、二匹の子猫を見つけて抱きあげました。カラスは人間がきたので、しかたなく逃げてゆきました。

 「こりゃ大変だ!このままでは死んでしまう!」おじいさんは、子猫をタオルでくるんで、動物病院へつれてゆきました。「先生、私はもう老人で子猫の世話はできません。この小さな命を救って下さい。どうか、あずかって下さい。」「わかりました。でも、助かるかどうか治療をしてみないとなんともいえません。あずかりますが、時々、様子を見にきてください。」「はい、約束します。」

 おじいさんは、心配で、毎日、動物病院に様子を見にいきました。そして、3週間が過ぎたころには、獣医さんの懸命な治療のおかげで、子猫たちのケガは少しずつ良くなり、ミルクも飲んで、体も大きくなってきました。「こんなに元気になりましたよ。退院できますよ。」「オーオー、おまえたち、良かったな。しかし、先生、私には子猫をかうことはできません。入院費用を払うお金もありません。」先生は、困ってしまいました。「そうだ、それでは、この子たちの里親探しのためのポスターを書いてくれませんか。」「絵なら、まかせて下さい。書きましょう。」 

 「う~ん、この黒い方の猫の手足は白くて、まるで、白足袋をはいているようだな。名前は、『タビ』にしよう。もう一匹は、顔にキズがあるが、目はぱっちりのなかなかの美猫になるな。名前は、夏生まれだから『ナツ』にしよう。」おじいさんは、嬉しそうにひとりごとをいいながら、二匹の猫の絵を描きました。お手紙もそえてありました。

 それからしばらくして、この里親探しの絵を、小学生と中学生の女の子が、じーっと見つめていました。ふたりは、獣医さんに猫を見せてもらいました。「かわいいね!」「でも、白い方の猫、ケガしてる。」「そうなんだよ。この猫は、一生、キズが残るかもしれない。でも、がんばってミルク飲んだり、あそんだり、懸命にいきているんだよ。二匹は仲良しなので、かってくれるなら、二匹一緒が条件だよ。」「パパとママにきいてみます。」パパとママは、ふたりのお願いをきいてくれるでしょうか。

 翌日、パパとママから、獣医さんの所に行くようにいわれました。そして、一枚の紙を渡されました。そこには、こう書かれていました。

許可証

タビとナツをかう充分な資格がありますので、許可します。つきましては、本日、二匹をむかえにきてください。

○△動物病院

 「やったあ~~!」ふたりは、とびはねて喜びました。新しい家族と新しいナツ・タビが、始まりました。

おわり

※この話は、実話をもとに絵本として創作したものです。(実際とは異なります。)

文章:祖母  挿絵:孫(小学5年生・女子)

タビとナツ

(令和1年・埼玉県)

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