第96話 ザリガニ釣り
川近くの田んぼのある一帯を、「風林火山」と、呼んでいた。なぜなのかは知らないが、先輩がそう呼んでいたから、そこは「風林火山」なのだ。
その一帯の山側の下あたりに、決してきれいではない用水路が流れていて、ザリガニ釣りをよくやった。そのへんの棒に糸をつけて、買ってきたレバーをエサにして、巣穴の前に糸をたらし、ザリガニがはさみでエサを挟んだら、ひっぱり上げる。網は使わない。
ザリガニは家に持って帰って飼うのだが、エサをあげるのを忘れて、そのうち見るのも怖くなって、そうこうしている間に腐って、臭くなる。よくある話だろ。
その辺りに、一人で行くのは、怖かったよ。ヘビや河童がいたら怖いから。怖いところだったんだよ。ヘビの抜け殻があったり、マムシ注意の看板があったりして。
(昭和50年代後半・埼玉県)
第95話 ステイホームで
以前から興味のあった張り子を独学で作ることにしました。
あまびえは、疫病退散を願って。
雪男は、雪男を探す男のドキュメンタリー番組を観た家族からの要望で。
ネッシーは、四人囃子というグループの「泳ぐなネッシー」という曲から。この曲の冒頭に「空が見たくなっても/リンゴが食べたくなっても/顔を出しちゃいけないよ」というフレーズがあり、聴くたびにネッシーにリンゴを食べさせてあげたいな…と思っていたので、リンゴをくわえさせました。
※イラスト・文章:話し手本人
(令和2年・東京都)
第94話 ミミズが鳴く
夏の始まるころになると聞こえてくるジーーと鳴く虫の声。小学生の僕らは、「この虫は何だろう」って、話していた。そしたら、そのうちの一人が、「鳴いているのはミミズだ。」と言いだした。その子は、「ジーーって、鳴いているところに近づいてみたら、声は止んでしまって、けど、聞こえてきたはずの草むらをかき分けて、その下の土を掘ってみたら、ミミズがいたんだ。」だから、その声はミミズが鳴いているんだと思う、って言うんだ。
けど俺は、「ミミズは鳴くのかなあ!そんな話聞いたことない。ミミズは鳴かないんじゃないかなあ!」って言ったんだけど、そいつはミミズだと言い張る。
(昭和50年代頃・愛知県)
第93話 動物園の思い出
いくつだっただろう。小学校の低学年だったように思う。家族4人で名古屋の東山動物園に行ったとき、売店でひと休みすることになった。パラソルの付いたテーブルに4人で座って、瓶のコーラを飲もうとしたら、売店横の檻の中の一頭のゾウが、ウンチをしたのだ。そのウンチときたら、ものすごく大きくてものすごく臭い!僕と弟は「クセイ!クセイ!」と大騒ぎした。
でも、そのとき、母親がコーラの瓶の口に小さいストローを入れようとしていることに、僕は気がついて、びっくりして叫んだ。「沈んじゃう!沈んじゃう!」そんな小さなストロー、瓶の中に沈んじゃう!なのに、母は「大丈夫だから。」と言う。「だめだめ沈んじゃうよ!」必死になって訴える僕の頭の中はそのことでいっぱいで、ゾウのウンチのことは、きれいに消えてしまった。あんなに臭かったのに。
この動物園は何度も行ったけど、このことが、唯一覚えていること。
(昭和50年代・愛知県)
第92話 タビとナツのおはなし(2)
タビとナツは、野良猫さんが森の中で産んだ子猫たちです。カラスにおそわれていたところを人間のおじいさんに助けられて、その後、親切な家族にひきとられたのです。
保護された猫たちは、まだまだあかちゃん猫で、うんちもおしっこも自分で出せませんでした。お母さん猫だったらなめて出ることを教えますが、それもできません。
そこで、ママはおしりをちょんちょんとしげきして出してあげました。でも、すぐにトイレを覚えて、中でするようになりました。う~ん、タビとナツはおりこうさんだねとママは喜びました。
あかちゃん猫が新しいお家にきて1か月、夜中に何回も起きてミルクを飲ませたりおしっこをさせたり、ママもパパもくたくたでした。
だれもお留守番がいない時は、パパが満員電車に乗せて職場に連れて行きミルクを飲ませました。
会社の人たちもみんな猫が好きでしたから、笑顔で見守ってくれました。
もちろん2人姉妹も学校から帰ると世話をしました。
なんてったって小さくてかわいくてみんなのアイドルです。
「人間の赤ちゃんが2人増えたみたいね。」みんなそう思いました。タビとナツは女の子でしたので、四姉妹ですね!
ひとつだけ心配がありました。ナツは保護される前にカラスにおそわれて、頭と鼻と口に大けがをしました。幸いにも、頭の傷はふさがりましたが、鼻と口の傷はふさがらないと獣医さんから聞かされていたのです。
ですから、ナツはご飯を食べたり息をしたりすることが不自由です。そのためか、タビよりひとまわりほど小さいのです。
でも、元気に遊んだり、ミルクもよく飲みました。
2か月を過ぎると、少しずつ、ご飯の練習が始まりました。そして、タビもナツも無事ミルクを卒業しました。
そんなある日、事件が起こりました。
ママが台所でご飯の準備をしていると、タビがフライパンに飛び乗り、油をなめていたのです。
「キャ~~!!」ママは叫びました。
幸いにも火はつけていなかったので、やけどはしませんでしたが、その後、台所に入れないように柵を付けました。
しばらくして、パパはこんなことを言いました。
「これから先、タビとナツはどんどん大きくなるから、ふたりの部屋を作ろうと思う。遊び場も作りたいな。どんなふうにしたいか、意見を言ってください。」
「は~い!!」
「安心して寝れるところ、清潔なトイレ、ご飯やお水の場所、登ったり降りたり隠れたり、遊べるところ!」
パパはさっそく材料を買いに行きました。パパとママのお休みはすべて猫たちの部屋づくりに使いました。もちろん、お姉さんたちも、お手伝いしましたよ。
やっと完成です!
世界中でこんなにすてきな猫の部屋はないと、みんなは思いました。
そして、今日は完成記念パーティーです。お客様を呼んでいます。タビとナツを助けてくれたおじいさんです。
おーおー、お前たち、こんなに大きくなって良かったのう。お前たちが幸せになって本当にうれしいよ。
それからお前たちにそっくりな猫に会ったんだよ。おそらくお前たちのお母さん猫だと思うよ。
無事に暮らしているから心配ないと言っといたよ。
「おじいさん、猫とお話しできるの?」「できるさ、ハートだよ、ハート。」おじいさんは、笑って言いました。
タビとナツは、高い台に登ったりくぐったり、すっかりおてんばになりました。
みんなの背中やお腹ですやすや眠っている時は、赤ちゃん猫に戻ってお母さん猫を思い出しているのかもしれません。
そして、時々、大きな窓から広い外を興味深くながめているのでした。
(おわり)
※このお話は、第66話「タビとナツのおはなし」の続編です。また、実話をもとに絵本として創作されたものですので、実際とは異なります。
文章:祖母 挿絵:孫(小学6年生・女子)
(埼玉県・令和2年)