第86話 ムクドリの巣立ち
隣家の2階の窓の雨戸は、開かずの扉になっており、その戸袋には、毎年、ムクドリが巣をかけるのです。
その日は、ムクドリたちの巣立ちの日でした。雨が降っていて、兄弟鳥はすでに巣立ち、最後に残ったひな鳥が、アジサイの植え込みに、落ちていました。雨で羽が濡れて飛べないのかもしれません。バタバタとしています。周りには野良猫もいて、危険です。私は、そのひな鳥を家に連れて帰り、体を拭いてやって、竹でできた小さな鳥かごに入れて、ひと晩、様子を見ました。
翌朝は、ピカピカのお天気でした。お腹が空いたろうと、鳥かごを庭のテーブルの上に置き、虫をつかまえてきて、ひな鳥の口元まで持っていってやるのですが、なかなか食べようとしません。困ったなあ、と思っていると、フェンスにムクドリが飛んできました。見るとそれは、親鳥2羽とひな鳥2羽の、保護したひな鳥のファミリーの様です。私は、本当に驚きました。彼らはどこかで様子を見ていて、全て知っていたのだと思いました。それを見たひな鳥も興奮して、バタバタと騒ぎ出しました。
私は、鳥かごの入り口をそっと開けて、洗濯ばさみで留めると、家の中から、様子を見ていました。4羽のムクドリは、テーブルの上に飛んできて、「出ておいで、出ておいで、」というようにひな鳥をいざなうような仕草をしてみせます。すると、ひな鳥も鳥かごから出てきました。そして、5羽のムクドリは、みんなでそろってなにごともなかったように、飛んでいきました。
(平成12~13年頃・千葉県)
※この記事は、話者により、加筆修正してあります。
第85話 かわいいカイコ
小学生の時、繭を作る授業で、クラスでカイコを飼うことになりました。私は、元々、芋虫や毛虫の類が、嫌いなんです。でも、長期休みで、誰かが世話をすることになった時、私は手を上げて、カイコを家に持って帰りました。カイコだけは、大丈夫だったんです。
カイコを手のひらに乗せると、カイコは、ペタッペタッと、吸盤が吸い付くように、くっつくように歩きます。それが、妙に好きで、見た目は芋虫と変わらないのに、かわいいな、と思いました。カイコは、白に近いグレーの色をして、光沢のないマットな質感をしていました。私は、近所の桑の葉を取ってきて、あげました。親も、不思議に思っていたようです。虫かごに入れて、5~6匹いたと思います。普通に面倒を見て、たまに手のひらに乗せて、かわいいなぁと思っていました。
何かの拍子に、そのカイコのことを思い出すことがあるのです。
(昭和60年頃・神奈川県)
第84話 台所のまわり
私の故郷の家は郡山から4キロほど離れた農村地帯にあって、当時にしてはめずらしい現代的な立派な家でした。父は紡績会社の勤め人で、母はばあやを連れてお嫁に来ました。私は、ばあやのことを「大きいばあちゃん」と呼んで、年中くっつき、色んなことを教わりました。
当時、炊事はかまどと七輪を使い、炭で火を起こしていました。(お風呂は、コークスを使用していました。)私たち家族は、昭和20年代、東京に出て来ることになるのですが、その時初めて、ガスというものを見ました。
学校に持ってくるお弁当といえば、卵と鮭を持ってこれるのはクラスに一人くらい。大抵みんな、たくわんだけで、それが温まると、すごい臭いがするのです。(持ってきたお弁当は、保温機で保温されています。)でも、ごはんが持ってこれるだけでも良かったよね。
お肉が食べられるのは、お正月かお客さんが来た時くらいで、卵を産まなくなったニワトリを、知り合いのおじさんに絞めてもらっていました。私は鍋の中の鶏肉を見ていると、「コッココッコ」言ってるように聞こえました。いつもニワトリに餌をあげるのは、私の役割でしたから。でも、食べました。
お正月には、牛肉を買ってきて、すき焼きにし、お客さんにふるまうこともありました。私たちは、その後、鍋に残ったネギと汁をいただくのですが、それが、ごちそうでした。
(昭和10年~20年代・福島県)
第83話 ネズミ騒動
昭和48年、私たちはこの町に引っ越してきました。まだ畑が多く、住宅が段々と建ち始めてきている頃でした。家の近くには川が流れ、ヘビがいてネズミがいました。
その当時この辺りでは、ネズミ捕り用の餌が、自治体から配られていました。その上、年に一度、家の中に、駆除剤を噴霧しに来るのです。『その間は、家を出ていて下さい。熱帯魚がいる場合はフタをして、動物は外に出しておいてください。』と言われます。これは半強制的に5年ほど続きましたが、いやだ!いやだ!という人が出てきて、希望者だけになり、その内、無くなりました。
それからだいぶ経ち、12~13年前、家を空けることがありました。しばらくぶりに戻ってみると、部屋中にティッシュが散らばっています。野菜入れのジャガイモにはつついた跡があり、お手玉は縫い目が抜かれて、中の小豆が食べられていました。一方、数珠玉には全く手が付けられていませんでした。
その晩、寝ていると、鴨居から枕元に、何かが、落ちてきて、ダーッと走っていきました。身は細長く、尻尾は長く、恐らくクマネズミです。思わず、かっこいい…と見惚れてしまいました。ネズミは、古い換気扇をぽーんと飛んでいきました。
実はそのネズミ、箪笥の陰にティッシュで巣を作っていました。ふと見たら、そこに、鎮座ましましていたのです。
そこで、追い出そう!と、ついに決意し、窓を閉め、箪笥に向かって煙を焚きましたが、肝心のネズミは、ダーッと逃げていっただけで、家の中からいなくなったのかは、わかりません。逆に、自分の方が煙にやられて気持ち悪くなる始末でした。
次に、お隣さんが探してくれた業者さんに依頼することにしました。1か月8万円ということでした。業者さんは、鴨居や床下に網を取り付ける等してくれて、その内に、ネズミの姿も見えなくなったので、1か月で断わろうと思ったのですが、2か月契約と言われて、結局、2か月分の代金を支払うことになりました。
その業者さんが言うには、ネズミは、どっかの家が取り壊されると(住処を追われると)、人がいない家に来て(引っ越してきて)友達を呼ぶ、そうです。
(昭和50年前後/平成10年代・埼玉県)
第82話 林が私を呼んでいる
私は、動物に弱い。動物に嫌われていると思う。よその犬には必ず吠えられるし、子どもが寂しくないように飼った犬の世話は、私がやっていたけれど、「家族の中で一番下」って思われてたと思う。動物好きのよその子にはひっくり返ってお腹を見せるのに、私の前ではひっくり返ったことなんてなかったし。私も、その犬をかわいいと思ったことはなかったし。一人暮らしの私に、知人が「ペットを飼ってみたら?癒されるよ。」って、いやいやいや、世話しないといけないし。
でも最近、猫好きな孫が「動物は目がかわいい」って言うので、庭を通る野良猫をよくよく見てみたら、「かわいいんだなあ」って、「なるほどなあ…!」って、思うようになって、そしたら、今まですーっと通っていたその猫も、止まってこちらを見るようになったの。
動物が嫌いとかイヤとかそういうわけじゃなくて、撫でる対象じゃないだけで、自然の中で、ひゅーっと動物が現れたりすると、感動してしまう。自然の鳥が好きで、鳥の声も聴きたいし、カモシカなんて見たら、ゾーッとするほどいいなあ!って思う。抑え込まれている、囲まれている動物が、イヤなのね。
(令和2年・埼玉県)