第58話 それは予想してなかった

今の家を買うとき、競輪場の近くだったから、治安的にどうかなあと思って、となりの家にピンポンして、この家を検討してるのですが…って、思い切って、聞いてみたのよ。そしたら、出てきたご主人が、全然この辺はうるさくもないし、ただ、競輪の最後の周の鐘の音は聞こえますよ、と、おっしゃったので、それくらいなら仕方ないなと思って、じゃあ決めよう!って、買うことに決めたの。

そしたら、裏に住んでるおじいちゃんの声が!すごく大きかったの!それだけじゃなくて、飼っている犬の鳴き声も、すごく大きい!私が家の中で動くと、気配を感じて、その度に鳴くのよ。それでも、おじいちゃんは、「こらこら」って、言うだけ。言い方が本当に優しいの。孫に接するようにしているのねえ。

しばらくして、そういえば、犬の声がしないなあ、って話してたら、おじいちゃんがいつも散歩していた犬が、ある日、突然、子犬に変わっていたの。きっと、前のワンちゃんが死んじゃったんだなあ、って思って。そしたら、今までは、ワンワンうるさかったのが、今度は、キャンキャンになって。番犬なのかなあ!(犬の種類はなあに? ※別の人からの質問)ミニチュアダックスみたい。(うちの犬もそうよ。猟犬だからねえ。気配に敏感なのよねえ。)

(令和1年・東京都)

第57話 銀座のしまちゃん

僕が働いている銀座の商業ビルの界隈には、しまちゃんという名の地域ネコが住んでいる。焼肉屋のおねえさんは、しまちゃんをかわいがっていて、開店前の店の中に連れて来て、きらきらの首輪をつけたり、かぶとをかぶせたりしているらしい。そのとき撮られたちょっとふきげんなしまちゃんの写真は、休憩室の机の上に挟まれていて、僕は、それを見た。

しまちゃんは、ビルとビルのすきまから出てきたり、サラリーマンや買い物客が歩いているところを、ちょろちょろ歩いていたりする。7階のトイレの窓からは、銀座のひしめくビルの裏側が見えるのだけれど、この前、そのビル群の間にある小さな空白地帯に、しまちゃんが、じーっと座っていた。あ、あんなところにいる、と思って、びっくりした。

しまちゃんは気まぐれで、共同のエサ置き場にエサを入れると、すぐに来る時もあるし、気がついたら無くなっている時もある。焼肉屋のおねえさんも、毎日しまちゃんを見られるわけではないらしい。一度、しばらく姿が見えなかった時、店のスタッフの一人が、ひかれた跡があると言い出したので、みんなで心配していたら、その後すぐに、ニャーっと現れた。時折、前代の掃除のおばちゃんが、しまちゃんに会いにやってくる。このおばちゃんが、しまちゃんの名づけ親らしい。しまちゃんは、キジトラの柄模様をしている。

(令和1年・東京都)

第56話 街に住むネズミ

僕が働いている銀座の商業ビルでは、飲食店のゴミ袋は、物置の中に、その他の店のゴミ袋は、非常階段のうらに大きな四角い布ぶくろをぶら下げて、その中にポンと投げ入れるようになっていた。

そこに、ネズミが、よくでる。地域ネコもいるのだが、まったく役に立たない。それどころか、ネズミを見ると、逃げ出してしまう。

あまりにも多くでるので、つり下げぶくろは止めて、新しい物置を、5つほど、ビル裏に設置して、そこにゴミ袋を入れることになった。でも、結局、いなくならない。物置のまわりを、チョロチョロチョロチョロしている。大きさは、体長20センチくらい(に見える)で、灰色、けっこうまるまるとしている。罠は、かけていない。「やっぱでてるよー」と掃除のおばちゃん。

(令和1年・東京都)

第55話 イノシシの箱わな

箱わな

今まで、このあたりにイノシシが出ることはなかったのだが、ここ数年、イノシシが里に降りてきて、畑や田んぼを荒らすことが増えたため、箱わなを設置するようになった。箱わなの中には、エサとして、小糠が、まいてある。

イノシシ除け

田んぼのまわりに、イノシシ除けを立てている。

(令和1年・石川県)

第54話 市街地とツバメの巣

通るたびに見ていたツバメの巣が、空っぽになっていた。つい数日前まで、親ツバメが、往復していたのだけど。今年も、色々な場所で、ツバメの巣を見かけた。駅の防犯カメラの上、酒屋の外灯の上、道の駅の建物のひさしの下、商店街のビルのビニールひさしの角の下、休憩所のトイレの天井はし、など。

ツバメのフンの落下対策もそれぞれで、注意喚起のポスターや、床に新聞紙が敷かれてポールで囲まれていたり、酒屋の外灯では、ビニール傘の内側に新聞紙を広げたものが、巣の下につるされているのを見かけた。

ツバメの子が、盛んに口をあけて鳴いている姿は、かわいい。親ツバメが、往復する姿は、かいがいしい。私が写真を撮っていたら、後ろでは、同じくカメラを持った青年が、私がどくのを待っていました。

(令和1年・東京都)

第53話 いきものを飼うということ

父が、シマリスをつかまえてきました。父の仕事は、木の質を調べることだったので、そこで、見つけたのでしょう。大きなゲージも買って、私は、ものすごくかわいがっていました。触ることは禁止されていたので、家にいる間じゅう、ずーっと、ゲージの外から、眺めていました。名まえはたしか無くて、「りすちゃん」と、呼んでいました。私は、りすちゃんの水が無くなるたびに、すぐに入れ替えました。ところが、ある朝、見に行ったら、死んでいたのです。親は、私が水をあげすぎたからだ、と言いました。私は、すごくショックで、それ以来、いきものを飼えなくなりました。5才になってないくらいのことです。

(昭和30年代・北海道)

第52話 母の顔

幼い頃に住んでいた町は、山もあって川もあって、スキーもスケートもできて、小さな場所だったけど、私は好きだったのよ。

3才のころ、あそびの帰り道、午前中だったかなあ、雪が積もっていて、そしたら、雪の上から、ぴゅーぴゅーぴゅーぴゅー鳴いている声が聞こえて、なんだろうと思って見たら、小さな生き物がたくさんいるのを見つけたの。薄いグレーで、子どもの目で見て5センチ位の大きさのものが、たくさん。私は、とっさに、これは死んじゃうよ!かわいそうだよ!と、思って、雪ごと抱え込んで、家に持って帰ったの。家に帰って、玄関に着いたとたん、そのまま、ごんっと置いて、「おかあさーん、ワンちゃんが、いっぱーい!」と、叫んだら、それを見たお母さんが、ギャーっと飛び跳ねて、「あんた!それ、ネズミだから!早く捨ててきてー!!」って、怒鳴ったの。仕方なく、元の場所に捨てに行ったけど、その後もずっと心配で、次の日、見に行ったら、跡形もなかったの。

母親のあんな顔を見たのは、初めて。あの時の顔は、今も覚えていて、思い出すと、笑っちゃう!メガネから目が飛び出すんじゃないか、ってくらい驚いていて、怒るというより、勘弁して~!ってかんじ! でも、やっぱり、犬だったと、私は思うのだけれど。…なんだったのかしら?

(昭和30年代・北海道)