第68話 川を泳ぐヘビ

 家の庭のすぐわきを、川が流れている。その川を、長いヘビが、泳いでいく。ひと夏に何回も。ヘビは、水を好むのだろうか。川もあり、草木もあるから、この辺りには、ヘビが来る。冬眠も、子育てもする。(最後にヘビが泳ぐのを見たのは、20年くらい前)

 藤棚にハトが巣を作ったことがある。ギャーギャー騒がしいので、のぞいてみたら、ヘビが、ハトをのみこんでいた。竹ぼうきで応戦したけど、一回くわえられたら、もうだめだった。(30年くらい前)

 小学生の娘が、学校の帰り、細いヘビをつかまえて、しっぽをつかんで、くるくる回しながら、帰ってきた。それを、空のティッシュボックスに入れて、家に持ってきたら、ヘビが苦手な父親が「こんなの持ってきて~!早く持っていってくれ~!」と叫んだ。(35年くらい前)

(昭和後半~平成始め頃・埼玉県)

第67話 チビ、それからミルクとチャチャ

猫って便利なもので、お座りすると、手と口が使えるでしょ。(猫の『チャチャ』が)記念の懐中時計を、分解しちゃって。でも、組み立てはしてくれないでしょ。「先生がやったんでしょ」って、「寝ている間にいたずらしたくなってやったんでしょ」って、冗談じゃないよ、そんなことやらない。娘の夫も、「そんなバカなこと信じられません」って。信じてくれるのは、その猫をゆずってくれた人だけ。その人は、獣医さんなんだけれど、「そうゆうことができる子が中にはいる」んだって。「もしかしたら、あるいはもっと色々できるかもしれませんよ。」って。チャチャは、寝室からリビングに来るとき、ドアノブにとびついて開けるんだよ。いつか見てみたいと思ってて、一回だけ、見たことがあるよ。ボールペンを分解した時は、芯についてるバネがどこかいっちゃって、結局、ボールペンは捨てたの。ワイフのポーチのジッパーを開けて、通帳をばらまいたりもしたけど、元に戻してくれないからね。

チャチャは、ちょっとしっぽが曲がっている子。2015年生まれで、人間にすれば、24才、青年まっさかり。そうゆういたずら小僧で困ってんだけど甘ったれなの。僕は、(室内でも白い)手袋をしてるの。甘がみしてくるので用心しているの。ネーネー遊ぼうよって来るときも、ごはんあげるときも。(甘がみされると)内出血しちゃうからね。

前は、犬を飼っていたんですよ。毛の長いシーズー犬の『チビ』。一番下の小僧(次男のこと)が、お世話をしていた。すごくかわいがっていて、次男坊の布団の上で寝ていたよ。結局、18歳で亡くなったかな。人間で言えば、100歳を超えてる。ワイフに抱かれて、大往生。眠るように亡くなったの。それから、もう飼えないって、チビのこと忘れられないって、30年間くらい飼わなかったの。今でも夢に見る。うんと懐いてたもんだから。なにか飼いたいなって思っても、チビの面影が浮かんじゃって、いやだめだ、と思っちゃって。30年たって姿も薄くなってきてもう大丈夫かなって思い始めた頃に、川越のお煎餅屋さんで、勧められて。「ぼちぼち飼いませんかねえ。」って。それで、飼ってみよかなぁと思って、『ミルク』を飼いはじめたの。チャチャは、その後、獣医さんに勧められて。先に飼い始めたミルクは、耳と足だけ三毛で、あとは真っ白。2011年生まれで、人間にすれば50才。二人とも、僕らの寝室で寝てるの。男の子の方(チャチャ)は、ワイフの寝床に入って、寝床の真ん中に寝ころがってるよ。

なんでも、生き物がいると心が和むっていうか、感動することも、多いね。犬のチビは、私が帰ってくる時には、玄関でお座りして待ってたな。

今は、上の娘の方(ミルク)が、ワイフが帰ってくると、ワアーオ・ワアーオって鳴いて、騒ぐの。耳がいいから、車の音でわかるのかな。僕はわからないのにね。そういうのを見ると、いとおしくなる。そんな感じだね。あるいは、チャチャは、食事の時、(だめだよって言うのに)テーブルに飛び乗って、食べ物を点検するの。「でてるおかずは何かなあ」って、確認するのね。そういう意味では、楽しいね、動物と暮らしてると。朝も早く動き出して、「早くごはんちょうだいよ。」。戸の前で、「ネーネー開けてよ。」。チャチャは自分で開けられるのにね。待ってるってのは、格好いいし、可愛いね。動物がいるのはいいね。フフフ、人間ばかりだと、けんかになるもの。

(令和1年・埼玉県) 89才・男性

第66話 タビとナツのおはなし

 夏をむかえた公園の林から、ミャーミャーと鳴き声が聞こえます。子猫が生まれたようです。三匹います。お母さん猫は、子猫たちを、きれいになめて、オッパイをのませます。みんな元気によく飲みます。「さあさ、みんな、もっと安全なところへお引越しをしますよ。」お母さん猫は、一匹ずつくわえて別の所へ運び始めました。


 その時、木の上から、大きなカラスが、そのようすを見ていました。「カァーカァー、うまそうな子猫だな。」カラスは、お母さん猫が一匹目の子猫を運んでいる間に、お留守番の二匹の子猫を、あっという間にくわえて、空に飛びあがりました。「お母ちゃん!たすけて~、こわいよ~、いたいよ~!」子猫たちは、せいいっぱいもがいて鳴きました。でも、お母さん猫には、声はとどきませんでした。

 子猫たちがあばれるので、カラスはおもわず、くわえていた二匹を落としてしまいました。「ミャオ~ン!」子猫たちは公園の芝生に落ちました。カラスはあきらめずに、子猫たちに向かって突進してきました。その時、公園でスケッチをしていたおじいさんが、二匹の子猫を見つけて抱きあげました。カラスは人間がきたので、しかたなく逃げてゆきました。

 「こりゃ大変だ!このままでは死んでしまう!」おじいさんは、子猫をタオルでくるんで、動物病院へつれてゆきました。「先生、私はもう老人で子猫の世話はできません。この小さな命を救って下さい。どうか、あずかって下さい。」「わかりました。でも、助かるかどうか治療をしてみないとなんともいえません。あずかりますが、時々、様子を見にきてください。」「はい、約束します。」

 おじいさんは、心配で、毎日、動物病院に様子を見にいきました。そして、3週間が過ぎたころには、獣医さんの懸命な治療のおかげで、子猫たちのケガは少しずつ良くなり、ミルクも飲んで、体も大きくなってきました。「こんなに元気になりましたよ。退院できますよ。」「オーオー、おまえたち、良かったな。しかし、先生、私には子猫をかうことはできません。入院費用を払うお金もありません。」先生は、困ってしまいました。「そうだ、それでは、この子たちの里親探しのためのポスターを書いてくれませんか。」「絵なら、まかせて下さい。書きましょう。」 

 「う~ん、この黒い方の猫の手足は白くて、まるで、白足袋をはいているようだな。名前は、『タビ』にしよう。もう一匹は、顔にキズがあるが、目はぱっちりのなかなかの美猫になるな。名前は、夏生まれだから『ナツ』にしよう。」おじいさんは、嬉しそうにひとりごとをいいながら、二匹の猫の絵を描きました。お手紙もそえてありました。

 それからしばらくして、この里親探しの絵を、小学生と中学生の女の子が、じーっと見つめていました。ふたりは、獣医さんに猫を見せてもらいました。「かわいいね!」「でも、白い方の猫、ケガしてる。」「そうなんだよ。この猫は、一生、キズが残るかもしれない。でも、がんばってミルク飲んだり、あそんだり、懸命にいきているんだよ。二匹は仲良しなので、かってくれるなら、二匹一緒が条件だよ。」「パパとママにきいてみます。」パパとママは、ふたりのお願いをきいてくれるでしょうか。

 翌日、パパとママから、獣医さんの所に行くようにいわれました。そして、一枚の紙を渡されました。そこには、こう書かれていました。

許可証

タビとナツをかう充分な資格がありますので、許可します。つきましては、本日、二匹をむかえにきてください。

○△動物病院

 「やったあ~~!」ふたりは、とびはねて喜びました。新しい家族と新しいナツ・タビが、始まりました。

おわり

※この話は、実話をもとに絵本として創作したものです。(実際とは異なります。)

文章:祖母  挿絵:孫(小学5年生・女子)

タビとナツ

(令和1年・埼玉県)

第65話 青いハチ

8月下旬、神代植物公園で、青いハチを見たと聞いて、驚いた。この世に青いハチがいるなんて、想像だにしなかった。見てみたい。そこで、9月はじめ、公園の芝生広場、むらさき色をしたパンパスグラスの近くにある花壇まで、見に行った。目撃情報を予め入手していたので、まっすぐ向かう。女性の方がすでにいて、カメラをかまえていた。見ると、小さな、青色と言うより、柔らかな青むらさき色をしたハチが、花のまわりを飛び回り、とまっては、蜜をすっている。カメラの女性が、「青いハチ。」と、笑いかけてきたので、「そうですね。」と、うなずく。私は、満足した。その花壇には、他のハチや蝶も、たくさん飛び回っていた。帰り、芝生広場を横切ると、青々と、広々と、気持ちが良かった。

他の日に現れた青いハチ(柄が違う)

※写真は情報を教えてくださった方から、提供して頂きました。

(令和1年・東京都調布)

第64話 小さな森の中の保育室

今から40年も前のおはなしです。

埼玉のとある町で小さな保育室をひらいていました。近くには林もあり、環境も良かったのです。

生垣に囲まれた庭は、今思えばなつかしく、小さな森の中の保育室のようでした。飼いネコの2匹のネコたちは木のぼりしたり枯れ葉にうずもれながら、小さな子どもたちの成長を見守ってくれていました。農薬をまいていなかったせいか庭には鳥はもちろん、セミや様々な虫たちがいました。絵本のモデルそっくりのもぐらや、姫ネズミ、冬眠からさめたがまガエルや、ヤモリが顔を出しました。ネコたちは鳥をとったり、姫ネズミをくわえてきたりするので、ネコから取りあげて、獣医さんに診てもらったこともありますが、みな死んでしまいました。しばらくして家の建て替えで大きく育った木々を切り倒したとき、キュ~~ン、キュルルと木の悲鳴が聞こえてきて切なくなりました。土の中の動物たちは無事に引っ越しができたのかしらと今も思い出されます。

文章:本人

(昭和50年代・埼玉県)

第63話 都会の馬の仕事

60年以上も前のおはなしです。

東京品川でも山の手の住宅地です。道路がまだ舗装されていなかった時代です。東京でもまだ多くの家は汲み取り式のトイレでした。その為、各家の汚物(尿便は)、桶に汲みとられて、その桶は、大きな馬がひく荷車にのせられて運ばれていくのです。馬は通った後にはこれまた大きなふんが落ちていました。その汚物はどこへ運ばれ処分されていたのか馬はどこにかわれていたのか、不思議でなりません。

文章:本人

(昭和20年代・東京都品川)

第62話 こーちゃんと私とだんな

「カメはなつきません。なれるだけです。」って言うけど、こーちゃんとは、以心伝心、気持ちが通じているんじゃないかと思うのよね。

だんなが直接手でエサをあげるようになってから、水面にパラっとエサを落とすだけじゃ、くいつきが悪くてね、手の指をぬらして、2~3粒つけて、こーちゃんの顔のところに持っていくと、パクっと食べるのよ。ところが、こっちもいろいろ忙しくて、もう!早く食べなさいよ!って感じであげると、急にエサで遊びだすの。たぶん、人間のあかちゃんと一緒で、向こうは、こっちの心理が、手に取るようにわかるのね。気持ちが、映るというのかな。だから、忙しくても、こーちゃん上手だね、こーちゃんいい子だね、ってあげると、きれいに食べてくれるの。

昨日、私もだんなも、帰りが遅くなっちゃって、そしたら、玄関に入ったとたん、こーちゃんが、水槽の端からすごい勢いで、こっちにむかってきたの。バタバタしながらパパパッと。いつもなら、家に帰ってきても、ん?誰ですか?みたいな顔しているのに、あーちょっと今日は帰りは遅かったからかなあって。

こーちゃんは、うれしいと、のどをブカブカふくらませるのよ。水槽の外に出してもらった時とか、岩の上に登っている時とか、お父さん(私のだんな)が帰ってきた時とか。あたまをなでても、首をひっこめないのよ。

(令和1年・東京都)

第61話 癒しの鯉

前職をリストラされてからしばらく後、短期のアルバイトをしたことがある。ベルトコンベアに、カタログを乗せる仕事で、休みなく、重く分厚いそれを、ひたすらコンベアに乗せる。やっと無くなってきたと思うと、それがまた、山になって運ばれてくる。

その工場のトイレには窓があって、下を覗くと、小さな川が見えた。そこに、鯉が泳いでいた。川上に頭を向けて、尾びれを揺らし、上から見ていると、その場にとどまっているように見える。オレンジとか黒とかよくある模様で、3匹位いた。僕は、癒された。

同じ日に入ったヤンキーくずれの同僚に、そのことを話したら、「あーそうそう、オレも見るよ、あれはすごい癒されるよ。」と、言った。

殺伐とした職場で、川を泳ぐ鯉は、僕の(たぶん他の人たちも)唯一の癒しだった。

(平成10年代・神奈川県)

第60話 その名は、トンカツ

トンカツは、浅草の昔ながらの裏道の、居酒屋の前に、大人しく、小さな声で、ブブブブ…と鼻を鳴らしながら、立っていました。

家族と一緒に、浅草寺をお参りした後、近くの裏道を歩いていたら、ピンクの塊が見えました。なんだあのピンクの塊は、と思って近づいて見ると、ああ、豚だった!周りはざわついており、写真を撮っている若者もいたけれど、誰一人、触ろうとする者はいません。そもそも豚は、触っていいものなのか、私にはわかりませんし、顔を近づけて見てみると、鼻をひくひくさせて、ブブブ…と言っている。これがミニブタだったらかわいいと思ったかもしれませんが、トンカツは普通の豚で、肌はきれいなピンクでしたが、かわいくはなかった…!

トンカツは、迷彩柄のチョッキを着て、小さな黒いヘルメットを頭にのせ、ハーネスでつながれていました。そのチョッキに、「トンカツ」と書かれた木の名札がついていて、それでたぶん、この子の名は、トンカツだろうと思うのです。ご主人は、これもたぶん、ご近所の方で、トンカツを散歩がてら、居酒屋で飲んでいるのだと思います。ああ、話をしていたら、豚カツが食べたくなりました。今日の夕食は、何にしますか?二品までは、決まっているのだけれど。

(令和1年・東京都)

第59話 神社の鶏

八百屋のお姉さんが、レジをしながら、お客さんに話しかけた。私は、それを、近くで聞いていた。

「神社に鶏がいるでしょ。この前、きつねに食べられちゃったんだってね。」「そう。3羽。」「そんなことも、あるのねえ。」

東京でも、そんなことが、あるんだなあ、と私も驚いた。

(令和1年・東京都)