小学校の卒業アルバムに、将来なりたいものは、ペットショップと本屋さんと、書きました。私にとって、動物も本も、同じように、自然に好きなのです。
高校三年生で進路を決めるとき、うちの猫のかかりつけの獣医さんに、動物病院で働くにはどうしたらいいか(獣医は除く)相談したところ、トリマーになるのが近道だよと教えられて、東京の専門学校に行くことにしました。
上京して、学校の寮に入りました。四畳半(あるいは六畳)に台所がついた二人部屋です。学校は、楽しかったです。アルバイトで学費を稼ぎながら、学校では、犬体学やカットの実技などを学びました。ワンちゃん一匹を仕上げるのには、丸一日かかります。私は、午前の部だったので、体を洗って、途中までカットして、午後の生徒に引き継ぎます。専科になると、一日作業ができるので、ワンちゃんを一日一匹、ひとりで仕上げることができるようになります。
この学校には、高校をリタイアした子や、手に職をつけたい社会人など、色んな年齢層の人たちがいました。タイプとしては、力まず流れに乗っていたらそうなった、という人が多く、絶対になってやるぞという気持ちの人はアジアからの留学生、二人くらいだったように記憶しています。
学校を卒業して、東京の獣医さんにすんなりと就職が決まりました。この時代(30年ほど前)、トリマーは、今よりも、社会的地位がしっかりとしておらず、雑用をする人というイメージでした。けっこう使い捨てのようなところもあり、就職口は割とあったのです。新しい職場では、犬舎の掃除や看護助手の仕事がメインで、トリマーの仕事は、依頼が入ればやるという感じでした。犬の毛をトリミングしようと思うこと自体が、少ない時代だったのだと思います。ですが、年末の一週間は、予約がいっぱいで、獣医が手伝っても、連日、夜遅くまでかかりました。
就職して二年後、結婚するため退職しました。住まいが遠くなるというのもありましたが、特に、仕事を続けたいとは思わなかったのです。その後、子どもを育てながら、パートの仕事もしました。本屋さんの仕事なんですよ。辞めてからは、トリマーの仕事はしていませんが、猫を飼っていました。最近、亡くなってしまいましたが…。元捨て猫で、茶トラです。
うーん…、動物や小説が好きなのも、トリマーの仕事を辞めたのも、強い理由があったんじゃなくて、自然な気持ちです。私の人生は、波乱万丈では全然ないんです。
(昭和60年代・東京都)