第32話 二人の不思議な関係

娘より先に、猫のカトランはいた。娘が生まれて、初めて家に連れて帰った日、カトランは、自分にとって宝物の、星型のおもちゃを、娘の枕元に置いてくれた。

娘を寝かしつけ、私が部屋を離れたあとも、カトランは、部屋の窓辺で、彼女を見守っている。そしてもし、彼女が泣き出すようなことがあれば、隣の部屋の私たちのところまで来て、ニャアンと鳴いて、知らせてくれるのだ。

カトランは、決して、まだ小さかった娘のことを、またいだり、飛び越えたりすることはしなかった。いつだって、すこしばかり距離を置いて、彼女の様子を見ている。娘がハイハイをしだしたころ、カトランは、彼女の近くをちらちらと歩いて見せた。娘は、嬉しそうに声を上げると、つたない動作で、ハイハイをして、カトランに近づこうとする。その様子を確認すると、カトランは、またちらちらと歩いて見せる。そうして、カトランは、彼女を導いてくれた。

カトランかあさんと娘の、不思議な関係。今も続いている。

(平成後半・東京都)

第31話 隣家の松の木に

買い物に行くために、自転車に乗ろうとしていた時、隣の家の松の木に、鳥がとまっているのに気がついた。大きさは多分鳩くらい、猛禽類のようで、小鳥だろうか、鋭い爪で押さえこんでいた。おー、これは、と思って、あわてて、スマホを取りに戻り、撮影し始めた。すごいなあと思うのは、私がたてる音には全く反応しないのに、小鳥の声が聞こえると、ピッ!ピッ!っと、首を回して反応するのである。その後、野生の鳥の辞典を、これまたあわてて開き、今見た鳥を、探し始めた。あわてすぎて、玄関のドアを開けっぱなしにしていたら、猫が逃げる!と、息子に叱られた。これだこれだ、と、思い当たる鳥を見つけたのだが、名前は忘れてしまった。初めて見る鳥だった。

(平成30年・東京都)

第30話 犬が怖かった話

30年以上前、学童に通っていた。そこでは、数匹の犬を飼っており、今思い返すと、犬たちは、かなりワイルドで、近づくだけで、リードをピーンと張るほどの勢いで、迫ってくる。大声で、吠えながら。結構、怖かった。

犬のエサは、近所の学校の給食の残飯で、みんなでリヤカーを引いてもらいにいく。残飯のにおいは、今でも思い出せる。腐ったにおいではなくて、色んな食べ物が混じったようなにおいだった。もらってきた残飯を、ひしゃくですくって、エサ用の器に入れるのだが、これもまた、犬たちは大興奮で、私は、圧倒された。

激しい犬は、友達の玄関脇にもいた。家の中に入るためには、飛びかかられるギリギリの、二本足で立ちあがった、吠えまくる飼い犬の横を、駆け抜けなければならない。友達の家には、ファミコンがあった。その前の、乗り越えなくてはならない試練であった。

(昭和60年代・埼玉県)

第29話 草刈りとカマキリ

子供のころ住んでいた家の近くには、小さな川が流れていた。草が生い茂る夏になると、市役所の人がやってきて、草刈り機で、土手中を刈り始める。すると、土手わきのフェンスに、逃げ出してきたたくさんのカマキリが、びっちりとはりつく。僕たち子どもは、大喜びで、カマキリの取り放題とあいなるのだ。

(昭和50年代・愛知県)

第28話 鏡とカラス

公園の男子トイレの手洗い場には、鏡とその手前にちょっとした台があるのだが、そこにはよく、カラスがとまっている。なぜ、そこにカラスがいるのか。水を飲みに来ているのか?でも、どうやら、鏡に映る自分を、見に来ているような気もするのだ。この前、カロカカンと、トイレから音がした。カラスが、鏡をつついていたようだ。鏡の中の自分を、なんだと思っているのかしら。

追記

カラスが、2羽とまっている時もあって、彼らは、鏡に向かって、むにゃむにゃ話しかけているようだ。

(平成30年・東京都)

第27話 鳥の食風景・公園

芝生広場の芝を刈った翌日は、鳥たちがいっぱい、芝生に降りたって、地面をつつき始めます。多分、芝刈り機の振動で、虫たちが、上に上がってきたからじゃないかなあ。(草が伸びる時期・月1回)

蓮の池には、たくさんのオタマジャクシが泳いでいます。池のふちに、カラスがとまって、そのまま池に顔を突っ込み、オタマジャクシを食べてるようです。(春~夏頃)

コゲラが、ピーっと鳴いて、ココココっと木の幹をつつく音が聞こえます。後で見ると、木の下には木の皮が落ちています。コゲラが、虫をとりにきたんだと思います。

(平成30年・東京都)

第26話 動物のこども・レッサーパンダ編

レッサーパンダが子どもを産んだと知って、公開日に見に行ったら、すごい行列だった。みんなが見られるように、ひとり3分で次に動かないといけないのだが、私は、運よく先頭をとることができた。展示場の奥から、ついに、レッサーパンダの赤ちゃんがでて来た。私は、夢中でスマホで撮りまくった。フト気づくと、向こうから、もう一匹、ひとまわり小さなレッサーパンダが、やってくる。あれ、こっちこそ、子どもなのでは…。ああ!私は、お母さんを連写してたのか!持ち時間、ひとり3分だったのに。でも、断然、子どもより、お母さんの方がかわいいと思うのだ。お母さんの方が顔がまんまるで、子どもはまんまるくない!

(平成後半・東京都)

第25話 動物のこども・チーター編

チーターの赤ちゃんが産まれた知らせを、新聞記事で見つけて、すごくかわいいなあ、と思って、切り抜いて、持っていた。ほどなくして、動物園で、本物を見たら、思った通り、小さくてかわいかった。こんなかわいいもの他にはない!って、思った。それから、動物園に通いだしたのだけれど、チーターの赤ちゃんは、みるみるうちに大きく成長して、ついには、お母さんと見分けがつかなくなってしまった。四本足の動物の成長は早い。ショックだった。

(平成後半・東京都)

第24話 猫とお父さん

お父さんが、猫を拾ってきた。近所の、施設の敷地には、何匹かの野良がいて、施設の職員さんから、ぜひもらってください、と言われて、その頃、家族で新しい猫を飼おうかと、話していた時だったので、お父さんは、もらうことにしたらしい。ちょうど現れた子猫を、かぶっていた帽子のつばをもって、ひょいと、つかまえようとした。ところが、逃げられてしまった。お父さんは、がっかりしてあきらめかけたのだけれど、さっきの子猫が、ひょっこり、井戸の横から、また、顔を出した。次こそはと、もう一度、帽子をひょいとかぶせたら、今度はつかまえることができた。お父さんは、自転車の前かごに、子猫をのせて、連れて帰ってきた。

子猫は、お母さんにだけなついて、お父さんと私には、なついていない。お父さんは、どうしても、子猫をなでたくて、ひっかかれないように、軍手をしてなでようとした。でも、結局、ひっかかれた。

これは、10年ほど前のはなし。それから、子猫は、大きくなった。あいかわらず、お母さんになついていて、男の人には、威嚇します。

(平成30年・東京都)

第23話 家族思い

息子がお腹にいた頃、飼っていたミニウサギを、サロペットのポケットに入れて、夫と一緒に、運動場まで、散歩に連れて行ったことがある。

さて着いたところで、運動場に放したとたん、リードをはずした犬が、猛スピードで、ウサギめがけて、走ってきた。逃げるウサギを、犬は追いかける。すると、すごい剣幕で、夫が犬を、追いかけだしたのである。あわてたのは、犬の飼い主で、うちの犬がやられる、と思ったんじゃないだろうか。

私はそれを見て、ああ、意外とこの人は、家族を守ろうとしてくれる人なのかもしれないなあ、と思ったのだ。

ウサギは、コンクリートの陰に隠れて、無事でした。

(昭和60年代・東京都)